「嫌韓憎中」本の氾濫に異議あり

最近「嫌韓憎中」といわれる、近隣諸国への憎悪を煽るメディアが増加しています。書店にはこの手の書籍が溢れ、ランキングにも入っています。
この流れを加速させているのが、出版不況の現実という分析もあります。つまり出せば売れるから「嫌韓憎中」を派手にぶち上げるということです。
村上さんがたくさん本を出し、このサイトの管理をしている新潮社もその一つです。もちろん新潮社が一丸となって「嫌韓憎中」をしているわけではないし、社員が全員右翼であるとも思いません。他の出版社ももちろんそうでしょう。
しかし、リベラルな村上さんの本とこうした類の本とは明らかに齟齬があります。一つの出版社は一つの思想の本しか出していけない、というのはもちろんおかしいし、それこそ非リベラルな態度です。それでも私は「商売だから」とまさに「魂が穢れる」ような内容の本を出す出版社に嫌悪感を抱いてしまいます。
村上さんはこうした傾向とご自分の思想とをどのようにお考えでしょうか。
また、もっとはっきり言えば、村上さんの読者層の広さと売上部数を考えると、「嫌韓憎中」の読者と村上さんの読者は、割合はともかく重なっていると推測します。つまり「流行っているから」「みんな読んでいるから」という理由で両方の本を手に取る人が、相当数はいるのではないかということです。村上さんにしてみれば、まさにそういう人たちに自分の小説を読んでもらうことに意味があるともいえますが、「周囲に合わせてさえいればいい」という日本人に特に強い傾向を考えると、村上春樹がこれほど支持されているにもかかわらず、その思想は全く理解されていないということになるのではないかと悲観的に考えてしまいます。
こうした自分の読者も含めた最近の日本人の右傾化・保守化をどうお考えになりますか。
このように「私だけ分かっている」ような言い方は、村上さんに嫌われてしまうかもしれませんが(笑)。
しかし、私は社会学の研究者として「社会を変革できるのは、社会科学ではなく文学的想像力しかない」と今のところ結論づけているので、文学に大きな期待を寄せるとともに、それが果たして効果があるのかという不安も同時に持ってしまうのです。
私自身は、日本は「特に」東アジアの国の人々と仲良くすべきであると考えていますし、実際に友人も多くいます。
お返事いただけたら嬉しいですが、読んでいただけるだけでもとても嬉しいです。ちょうど早稲田大学第一文学部の学生のときに『ノルウェイの森』が出て、大学生協で買って今まで40回ほど読み直しました。他の長編も数十回読んでいますが、いつでも初めて読んだ時の自分に戻れるようで楽しいです。
今後も長編小説を期待しています。ありがとうございました。
(asian、女性、46歳)

僕は最近、新潮社と文藝春秋から本を出すことが多いですが、そういえばどちらも「嫌韓憎中」路線っぽい雑誌を出しているみたいですね。でも、あなたもおっしゃるように、会社全体がそういう右傾化路線を貫いているわけではありません。むしろリベラルな考え方をする社員の方が多いんじゃないかと思いますよ。僕はそういうことはとくに気にしないで仕事をしています。どこの会社から本を出そうが、誰に遠慮することもなく、自分が考えることをできるだけわかりやすく、はっきり意見として発信するようにしています。

正直に意見を口にすることで、一部の人々の反発を買うことももちろんありますが、でもそれは仕方ありません。僕は右でも左でもありません。どのような陣営に属しているわけでもありませんし、政治運動に関わっているわけでもありません。誰かに意見を押しつけているわけでもありませんし、誰かを排斥しているわけでもありません。自分の意見だけが正しいと思っているわけでもありません。僕の発言はあくまで僕個人のものであり、僕個人がその責任を引き受けることになります。

村上春樹拝