ローマよりもアイスランドで暮らしたい

村上さん、こんにちは。ローマから質問です。
私は17歳からの8年間をアイスランドの人口が1000人弱の町で暮らしていました。学校へ通い、もちろん日本人など私以外に居ない環境でしたが、良い友人にも恵まれ充実した8年間でした。それよりもアイスランドの自然に心を引かれ、白夜の夏には夜中まで遊び、長く暗い冬には家にこもって村上さんの本を黙々と読み、オーロラが出ていたら家を飛び出し、丘の上に寝そべって見ていました。それが私の生活でした。そんな生活のなかで私は大人になり、アイスランドで出会ったイタリア人の夫と結婚し、仕事の関係でイタリアに住むようになって3年が経ちました。
日本の友人からは「イタリアに住んでるなんてカッコいい~!」とか「私もイタリアに住みたい」などと口々に言われます。ですが私はこの国を好きになれないのです。3年も経つのにイタリア語も少ししか喋れません、娘に間違いを指摘される程です。アイスランドに居た頃は6ヶ月も経てば友人たちと馬鹿話をして笑っていました。ですがイタリアに住み始めて、日々アイスランドでの日々を懐かしく感じ、泣いてしまう事も良く有ります。まるで好きではない人と結婚をして、初恋の人を心の中で想っているような、そんな感情です。
できる事なら、またアイスランドで暮らしたい、ですが夫の仕事の事を考えるとそう簡単にはできないのが現状です。これからもこんな思いをしてイタリアで暮らせるのか正直自信がありません。もちろんこの国にも良い所は沢山あります、私がただ素直に受け入れられないだけなのかもしれません。
村上さんは自分があまり好きではない場所で暮らす事になったら、その場所を好きになろうと努力しますか? それとも好きなところへ行っちゃいますか? 
お答えいただけたら幸いです。
これからもすてきな作品を待っています。ちなみに私は羊男が大好きなのです。
(千春、女性、30歳、主婦)

イタリアとアイスランド、ずいぶん違いますよね。アイスランドを懐かしく思われる気持ちは僕にもなんとなく理解できます。僕もアイスランドに滞在しているあいだ、ここはほんとうに特別な土地なんだなという気がひしひしとしていました。心が静かになるというか。ローマに住んでいるときは、楽しいことももちろんたくさんあったけど、けっこうくたびれました。

いつかまたアイスランドに戻れるといいですね。しかしあなたはどうしてまた、8年間もアイスランドに住んでいたんですか? そのへんにすごく興味があります。ところで今年の秋に出る僕の旅行記に、アイスランドのことをわりに長く書きました。もし興味があったら読んでみてください。

村上春樹拝