惨劇に巻き込まれた人の描き方

数年前、震災の悲惨さと救助者の献身を伝えることが使命と謳う芝居を見ました。100人以上の取材を元にした芝居とのことでした。

しかし、私には人々の現実の死に様を切り貼りした作品に見え、落ち着きませんでした。

私にとって、予期せぬ悲惨さに巻き込まれた人々の苦悩や哀切を深く感じさせてくれる、事実に裏打ちされた本は『アンダーグラウンド』です。
この違いは何だろう、とずっと考えています。

『アンダーグラウンド』を執筆されるにあたり配慮されたことについて、今の村上さんのお考えを教えて下さい。
(なかぎょう、女性、42歳)

僕はなんといっても小説家ですので、たとえどんな大きな事件や災害があったにせよ、僕がそこで関心を抱いてしまうのは、あるいはじっと間近に見つめたいと思うのは、現象そのものではなく、あくまでそこにいる人間の姿です。僕が『アンダーグラウンド』という本の中で描きたかったのは、あくまで人の心です。「配慮する」とかそういうレベルのことではなくて、僕にはそういうタイプの本しか書けないのだと思います。良くも悪くも、というべきか。

村上春樹拝