「鏡」の懐中電灯はどうなったのか

村上春樹様。こんにちは。
私は高等学校で国語の教員をしています。
授業で「鏡」を取り扱うことがあります。謎が多く素敵な作品で、生徒も興味を持って取り組んでくれます。昨年、ある生徒から次のような質問を受けました。
それは、「僕」が鏡の前で下に置いた「懐中電灯」についてのものです。「僕」が後も見ずに走ってその場から離れるときに、その懐中電灯は持って逃げたのか? 恐怖の中で下に置いた懐中電灯を持って逃げたのは不自然だし、次の朝玄関に行ってみた時のシーンでは、たばこの吸い殻と木刀の事しか書いていないから、というものです。
その時は、クラスのみんなで「確かにそうだね」と言い合った後で、「これは『村上さんに聞いてみよう!』だね」と冗談めかして終わったのですが、ずっと頭の片隅に引っかかっていました。この度メールで質問を受け付ける企画があると知り、やはり聞いてみたい気持ちを抑えきれず、質問してみることにしました。あの「懐中電灯」はどうなったのでしょうか。
よろしくお願いします。
(まさ、男性、45歳、高校教員)

懐中電灯、どうなったんでしょうね。いったん教科書に載っちゃうと、みんなが細かいところまでしっかり読むので、あちこちで問題や疑問が出てきます。僕としても「困ったなあ」と思いますよ。まさか「これはゆくゆく国語の教科書に載るだろうな」なんて思いながら小説を書いたわけじゃないので、そんなに細かいところまで気を配ってないんです。適当に書いている、とまでは言いませんが、わりに気楽にすいすい書いちゃっています。

「鏡」って、たしか30年くらい前に、どこかのPR誌の連載のために書いたものですね。まさか教科書に載るとは思わなかったなあ。

村上春樹拝