日本のサイン会、海外のサイン会

はじめまして。
村上先生が先日、ロンドンで行われたサイン会で、サングラス姿で颯爽と会場に現れた姿をニュースで見て、「日本でおやりになる気はないのかな?」と感じました。海外であの大反響ですから、日本で行ったらパニックになるでしょうが(少なくとも『村上朝日堂』で「ガラガラのサイン会ほど見ていて虚しいものはない」とお書きになった時点から、天ほど離れた地位におられるわけですが)。ちなみに日本でサイン会が行われたとしても、私の場合(たとえ抽選で選ばれても)畏れ多くも村上先生の傍に寄るなど出来そうにありません(しかし、サインは猛烈に欲しいです)。お答えいただけたら幸甚です。たいへん失礼いたしました。
(やみくろ(その一)、男性、45歳、会社員)

サイン会って、僕はもともとあまり好きじゃないんです。あまりやりたくないけど、やらなくちゃいけない事情があるからやる、ということがほとんどです。僕のサインなんてそもそも大したものじゃないという気持ちがあるし、それに営業目的でサインをもらいに来る業者の人も多いですしね。でもやるからにはもちろん一生懸命、手抜きなしでやります。時間をオーバーしてやることも多いです。

アメリカでは複数の作家が並んでサイン会をすることが多いんです。当然ながら、列の長さに差が出てきます。心ならずもコンペティションみたいになることもあります。僕もいろんなアメリカ人の作家とこれまで並んでサイン会をしてきました。けっこう有名な作家もいましたが、不思議に一度も列の長さで負けたことがありません。どうしてかな? たぶん普段ほとんどサイン会というものをやらないので、珍しいから、話を聞きつけて遠くからわざわざ来る人がいるせいだと思います。二十年くらい前にワシントンDC郊外の書店でジェイ・マキナニーと並んでサイン会をやったんですが、そのときも負けなかった。列が終わってしまって暇になったジェイがぶらぶらやってきて、「よう、ハルキ、なんでそっちの方の列が長いんだよ?」と(もちろん冗談で)文句をつけてきました。ただただ珍しさの故です。

日本でそんなことをやったら、相当問題になると思いますよ。恥をかかされた、とかね。そういう点、アメリカはおおらかでいいです。

村上春樹拝