この場面は必要だったのでしょうか

こんにちは! いままで、春樹さんの本をほぼ読んで、解せない内容が一つあります。主人公の男性が行きずりにちかい看護師と、コカイン? 薬物sexをする場面です。必要でしょうか? ショックです。日本人はナーバスです。そのへんはどう考えられますか? 
(俊子、女性、50代、主婦)

たぶん『1Q84』の場面のことを指しておられると思うのですが、事実的なことを訂正しておきますと、あれはコカインではありません。彼らが吸ったのは大麻系薬物です。コカインとは違って大麻は今のところ、オランダとアメリカ・コロラド州およびワシントン州では「危険ではない」という理由で、使用が合法になっています。日本では法律により禁止されています。そしてこれはあくまでフィクションの中の出来事です。殺人は言うまでもなく非合法行為ですが、もしフィクションの中に殺人が出てきたら、あなたはそれを「解せない」とか思いますか?

Breaking Badというアメリカの連続テレビ・ドラマは、ぱっとしないまじめな高校の化学教師が、癌治療の医療費を稼ぐために強力な覚醒剤を密造し、あれよあれよという間にドラッグの元締めになっていく話です。それがアメリカでは六年も続く大ヒット番組になりました。でもおそらく日本の一般のテレビ・チャンネルでは見ることができないと思います(有料インターネット・サイトでは見られますが)。もしそこに「ナーバス」な自主規制の風潮みたいなものがあるのだとしたら、そっちの方が大麻吸引なんかよりよほど怖いのではないでしょうか? 僕はそのように考えますが。

村上春樹拝