焼きそばはマドレーヌのように

はじめまして。
私は日本にきてもう10年以上が経ちました。
あっという間って感じです。
日本にきて初めて「焼きそば」という料理を食べました。
日本に来るまでは食べたことがなかったんです。
私より先に日本に来ていた友達が、近所のスーパーで100円のやつを買ってきて作ってくれました。
具は一切なし。野菜も入れず、肉も入れず、麺と粉末のソースだけのものでした。
その味は私にとって衝撃な味でした。
とてもおいしかったのです。
その時「焼きそば」ってこんな感じなんだろうなと頭の中にインプットされたみたいです。
それから、長い日本の生活の中で、いろんな焼きそばを食べました。
ところが……。
なぜか……。
いつも、一番最初に友達が作ってくれた「焼きそば」の味と頭の中で比較しちゃいます。
そして、思うのです。「何か違う」と。
祭りの屋台の焼きそばも、居酒屋の焼きそばも、高い焼きそばも、いろんな具がたくさん入った焼きそばも、確かにおいしいですが、一番最初に食べたその味にはなぜか勝てません。
村上さんは「私の焼きそば」みたいな料理はありますか? 
最初に食べた味の衝撃が強すぎて、そのあと、どんなものを食べても満足できない料理。
もしあったら教えてください。
(下手な文章、最後まで読んでいただきましてありがとうございます)。
PSこれからの新作、楽しみにしています。よろしくお願いします。
(p.kim、男性、39歳、会社員)

僕は焼きそばってそれほど熱心には食べないんですが、あなたのおっしゃることはよく理解できます。おそらくは「文化との邂逅」みたいなものが、そのスーパーで買ってきた安物の焼きそばの味に集約され、頭にしっかりと焼き付けられてしまったのではないでしょうか。不思議なものですね。

あなたの場合とは少し違うかもしれませんが、僕にも「どうしても離れられない定点的な味」があります。僕は関西で育ちまして、関西というのは「うどん文化圏」です。で、子供の頃にはよくうどんを食べました。東京に来てからはそばをよく食べるようになりましたが、子供の頃はうどんの方が好きでした。で、近所のうどん屋からよく出前をとったのですが、その出前のうどんの味が、今でもどうしても忘れられません。どこでおいしいうどんを食べても、そのうどんの味とは何か違っているんです。たぶんその味は僕の子供時代のいろんな思い出(風景)と不可分につながっているのでしょうね。プルーストのマドレーヌみたいに。

村上春樹拝