白ワインは誰が飲んだのでしょう?

村上春樹様

10年前の小説ですから、すでに他の方から指摘があったかもしれませんが、お話いたします。

『東京奇譚集』に収められている「偶然の旅人」の調律師は、火曜日になると車に乗って多摩川を越え、神奈川県にあるショッピング・モールに行きます。その中にある書店で読書するのが目的です。
彼は書店で知り合った女性に誘われて、彼女のプジョーに乗ってモールの外のフランス料理屋に食事に出かけますが、村上さんはそこではっきりと「グラスの白ワインもとった」と書かれています。
飲んだのは誰だろう? 
彼は当然モールの駐車場に停めた車に乗って家に帰らなければなりません。だからふつうなら飲めません。
プジョーの女性だって飲めません。だって飲んでつかまったら、ご存じのように、飲まなかった調律師の彼も同乗者として30万円以下あるいは50万円以下の罰金が科せられるからです。
でもたぶん二人とも飲まれたんですよね? 
代行を呼ぶ気配が二人にはなさそうだったので、ついこんなこと申し上げました。

この次は、代行が登場する小説を一回でも書いて頂けたら、さいわいに存じます。
(港のノートルダム、男性、43歳)

僕はイタリアに住んでいたころ(80年代ですが)は、お昼ご飯のときにわりにワインを飲んで、そのまま車を運転して帰ってくるような生活に馴れていたので(イタリアではだいたいの人がそうしているみたいです)、それが当たり前みたいになっちゃったんですね。イタリアで検問にあったことなんて一度もありませんでした。検問なんてなかったのかも(現在のことはわかりませんが)。アメリカでもワインのグラス一杯、ビールの一本くらいなら、ほとんどの州で法律的に明文化され、許可されていますし、僕もお言葉に甘えて一杯は飲んでいました。でも日本ではお酒を飲んだらいっさい運転しません。それははっきりと決めています。法律はもちろん遵守しなくてはならないし、そんなことで捕まりたくないですから。

小説の中でのそのような記述について、他の人から指摘されたことはまだありません。あなたが初めてです。日本に住んでいるのだから、小説を書くときはこれからはできるだけ気をつけるようにします。しかしレイモンド・チャンドラーの小説を訳していると、素面で運転している人の方がむしろ珍しいみたいです。困ったものですね。

村上春樹拝