男の嫉妬への対処法

村上さん、
わたしはメーカーで代理店営業を生業としているものです。

今は9歳になる息子がおり、彼が生まれてから人生の視野を広げようと始めた読書で村上さんに出会い、今日まで何度も繰り返し貴方の作品を読み返してきました。

本を読みだしてからというもの、ビジネスのうえでも先の流れをストーリーだてて進められようになり、新たなアイデアを企画、立案できたりなど、ここ数年は立て続けに成功を収めることが出来ています。

そのため、お客さんとの関係はいたって良好で対外的な仕事は充実した毎日を送っているのですが、それを面白く思わない社内には敵ばかりです。そのなかには私のことを評価する立場にいる上司も含まれます。

家庭も社外も順調ななか、ここ数年、このことが私の頭を悩ませています。

村上さんは男の妬み、嫉みについてどう思われますか? 
また、村上さんの考える対処法があればご教示下さい。
(ストレイシープ、男性、40歳、営業)

会社っていろいろと大変なんですね。僕は小説家なので、一人で仕事をしておりまして、職場というものがありません。だから気楽といえば気楽なんですが、でも出版社とはそれなりに関わりがありまして、その様子を見ていると「大変そうだなあ」と思うことはあります。たとえば僕がベストセラーを出すと、僕自身はすぐにどこかにさっと逃げちゃうからいいんだけど、あとに残された担当編集者に内外から様々な圧力がかかり、そのストレスで編集者が身体を壊したりするようなことも何度かありました。ものごとがうまく行くと、おおかたの場合、その反動として反発や嫉みみたいなものが降りかかってくるみたいです。会社にいると、そういうものから逃げられません。僕の担当編集者はだいたい一度か二度は身体をこわしているようです。申し訳なく思っています。

そういえばお店を経営しながら小説を書いていた頃は、いろんな人に面と向かっていろんな不快なことを言われましたね。客商売だからにこにこと聞いているしかないんだけど、今から思えばあれはきっとやっかみみたいなものだったのでしょうね。対処法? ありませんよね。にこにこして聞き流しているしかないんじゃないかな。僕はさすがに面倒なので、店をやめちまいましたが。

村上春樹拝