思考が文章と並走している感覚

村上さん、おはようございます。

村上さんの小説を読んでいると、しばしばある種の哲学を論じた文章を読むのと似たような読書体験をします。
感情を文字に置き換えているのではなく、ただ思考の道筋を文章が示しているような。文章にあわせて思考が並走するような。
読んでいて、思考が文章と並走している、運動している感覚が気持ちいいのです。
小説でありながらこの手の読感を得られることが、自分にとって村上さんの小説を読むひとつの理由のような気がします。
そこで質問ですが、村上さんは小説の文章を鍛えるにあたって、何を大事にしてきましたか? また、物語が小説としてよりよく編まれるためには、具体的に何をどう鍛えていけばいいのでしょう? お勧めのトレーニング法があれば、ぜひ聞きたいです。
(F、男性、36歳)

僕はものを考えてから書くのではなく、いつも文章を書きながらものを考えます。そして書き上げた文章を書き直しながら、ものをもう一度考え直します。それはエッセイを書くときも、小説を書くときも、このようなメールを書くときも同じことです。ですから書き始めたときと、書き終えたときとで、考え方が変わってしまっていることもしょっちゅうあります。だからこそ書くことが楽しいのですが。僕にとって、文章というのは思考のためのツールなのです。

文章を鍛えるための方法? 僕の場合は、身体を丈夫にしておくことと、良い音楽を聴くことが大事みたいです。あとは(もし可能であれば)原稿料をもらって日常的に文章を書くことです。僕が小説家としてデビューしたとき、編集者に「作家というのは原稿料をもらいながらうまくなっていくものです」と言われたけど、本当にそのとおりでした。

村上春樹拝