良い音とあまり良くない音

村上さんへ

私は音楽制作をなりわいにしています。
1976年うまれなのでかろうじてステレオやレコードプレーヤーを身近にかんじられていた世代だとおもいます。大人になり経済的に余裕ができてからは、音楽を浴びるため、オーディオのセッティングなどにこりました。いい音響で聴く音楽の素晴らしさはなかなかのものです。村上さんの小説やエッセイに影響を受けてそういう道にはいったので、とても感謝しております。

そんな私は、大多数のひとがスマートフォンでしか音楽を聴かないという現状に困っています。よい音楽を作ろうと必要な作業をするのですが、小さいイヤホンで音楽をきいている。音圧ばかり高くなり、本来の音楽的なものが、あとまわしにされている気がしています。

そこで質問なのですが、村上さんがスマートフォンで音楽を聴くとしたら、どうすればよいとお考えですか? 村上主義者、それも原理主義者にむけて、お考えをいただけないでしょうか。そして私はそれをこっそり制作の基準にさせていただきます。

(瀧田キタロウ、男性、38歳、音楽家)

たしかに最近の音楽は、iPodなんかでイヤフォンで聴くための音作りがされているので、家庭用オーディオでボリュームを上げて聴くと「なんだこれは?」という不自然な音になっている場合が多いです。だから真面目に聴くのがいやになってしまうことがあります。困りますよね。あなたのおっしゃるとおりです。しかしそれが時代の趨勢というか、音楽ビジネスの流れなので、どうすればいいかと言われても、僕にもなんともしようがありません。

レッド・ガーランドのアルバム「GROOVY」におけるポール・チェンバーズのベース音と、オスカー・ピーターソンのアルバム「WE GET REQUESTS」におけるレイ・ブラウンのベース音が、僕にとっての良い音のレファレンスみたいになっています。僕にとってそれに沿った音はみんな良い音だし、それに沿わない音はあまり良くない音です。とても単純です。なにか参考になりますでしょうか? 

村上春樹拝