ジョークはむずかしい

村上さん、こんにちは! 
私はドイツ(ミュンヘン)在住15年なのですが、未だに慣れないのが、こちらで『ジョーク』と言われる、いわゆる最後に笑いをとる面白小話です。こちらではパーティなど人が集まる場所で、お酒も入り時間が経って雰囲気がかなり和んで来た頃によく、ジョークタイムが始まって、皆が順々に持ちネタを披露します。初めの頃は言語もさる事ながら風刺の題材自体が日本人には馴染みのない物ばかりで、オチの面白さが全く理解出来ず、周囲が涙を流しながら大爆笑してるのを見ながら、自分も笑ったフリをしてました。
まぁ15年も経ってるんで、今は大体笑えるようにはなりましたし、私はバイオリンを弾いてるので、音楽ジョークってのも沢山あって、その中でもビオラジョークとかは面白くて、人から聞いたのを頂戴して、今では私も少しだけジョークのレパートリーもできました。でも未だにジョークを話すのは苦手です。
特に『日本のジョークを話して』と言われると困ってしまいます。サムライジョークとか新しく自分で作れないし……。

このジョーク文化って日本ではあんまりないですよね。
日本だけでしょうか、ないのは? 
お隣、中国のも聞いた事ありますし。

村上さん、こういうジョーク、凄くお上手そうですね。村上さんが品良く、かつ愛らしくゆっくり話して、外国人の大爆笑をかっさらってるお姿、想像できます。

で、質問です。
村上さんはこうしたジョークを話されますか? 外国人向け日本ジョーク、もしくは小説家ジョークなどレパートリーをお持ちですか? 
あったら是非是非、お聞かせ下さい。

最後に、村上さんの大ファンの主人(ドイツ人)が村上さんによろしく、と申しております。
(ババリアのアリババ、女性、42歳、バイオリン弾き)

ジョークってなかなかむずかしいですね。とくに外国語の場合には。このあいだエジンバラのトークで、現地の人から翻訳についての質問がありました。翻訳で細かい意味やニュアンスが失われてしまう場合があると思うのだけど、作者としてはそれについてどのように思うか、という質問でした。それについて僕はウディ・アレンの台詞を引用して「Bad sex is better than no sex」と答えました。翻訳がまったく出ないよりは、たとえ多少ロスがあっても翻訳が出た方がいい。みんな大笑いして、趣旨をよく理解してくださいました。笑うのってけっこう大事です(もちろん僕の小説の英訳は優れたもので、決してbad sexなんかではありません。翻訳全般のたとえとして言っているわけです)。

村上春樹拝