世襲がそんなに悪いのか

はじめまして、村上さま。私は日本海側の田舎町でほそぼそと自営業的な会社員をしています。この前、同窓会で酔った友人から「お前は自分のやりたいことがなかったのか、親の敷いたレールに……」とか言われ、内心やれやれという思いと、今時親の敷いたレールって古臭いなと思ったのですが、その場は否定もせずに聞き流す程度でいました。私自身は自分の役割がここにあると信じて日々仕事に精を出しているのですが、世襲が悪いことのようにいわれると家業を継ぐことを否定されているようで寂しくなりました。そこで質問なのですが、世襲についてどう思われますか?
(野ねずみ、男性、41歳、会社員)

自分の持ち場をまもって生きていくというのは、すごく大事なことだと僕は考えています。僕はとくに世襲するようなものもなかったので、自分で自分の持ち場を作って、こうして生きていますが、それがどのような仕事であれ、どのような経緯でもたらされたものであれ、自分の与えられた職分をきちんとまっとうに果たしていくこと自体に意味があると、基本的に認識しています。あえて言うなら職業倫理というか。僕のやっている仕事は、外から見ればあるいは派手に見えるかもしれませんが、日々やっていること自体は地道な作業です。そしていつも「職業倫理」というものが僕の頭の中にあります。ずるはしない、全力を尽くす、というのが僕の職業倫理リストのいちばん最初に来ます。

仕事が生きがいだという人もいますし、仕事なんてただの必要悪だという人もいます。僕はどちらもありだと思っています。でもどちらにしても、職業倫理みたいなものはなくてはなりません。それは生きていく上でどうしても必要なものだから。それが僕の考え方です。あなたに与えられた持ち場で仕事に励んでください。

村上春樹拝