旅行エッセイの書き方が知りたい

はじめまして。私は北海道の田舎の大学で勉強している韓国人留学生のすぅと申します。

私は村上さんの作品、特に旅行や海外滞在中書かれたエッセイの大ファンです。村上さんの旅行エッセイは村上さんが経験した事を正直に書くことで、私がその地に行った気分になるだけではなく、多分実際行っても気づけなかったであろうの事を感じることが出来、何回読んでも飽きないくらい面白いです。

ここで村上さんへの質問です。私が北の国に来て7年が経ち、なかなか出来ない楽しい経験をしましたのでこれらを文章で書きたいと思っています。いつか村上さんのようなエッセイを書くのが夢です。しかし、海外はどうしても自分の母国での生活とは違うので、正直に出来たこと、感じたことを書くと、その地の人の気に障ることを書く事も多少あると思います。実際に存在する所や人の話なので、その面で小説を書くこととは違うと思います。村上さんは旅行エッセイを書くとき、どのようにされてますか? また、どのように書いたらもっと面白いエッセイになるのか教えていただけたらうれしいです。

最初、村上さんのエッセイを読んだのは海外に行った事もない子供の頃でした。なかなか村上さんが海外で経験したことを全部理解することはできなかったんですが、それから10年以上が経ち、30代を目前にして、海外で10年以上住んだ今は村上さんのエッセイ、例えば『やがて哀しき外国語』などを読みながら色んな事を深く共感したり、新しい感動を感じることができ、うれしいです。

長い間ファンだった私がこのように村上さんに質問できる日が来るなんて想像した事もありませんでした。本当にありがとうございます。
(すぅ、女性、29歳、学生)

旅行エッセイ、あるいは滞在記みたいなものは、僕の経験からすれば、はっきりとした目的意識なしには書けません。つまり「自分はこの旅行について、あるいは滞在について、一冊の本を書くのだ」という覚悟がまず必要になります。のんべんだらりんと旅行したり生活していたりしたら、本なんてまず書けません。というか、人が読んで面白いと思う本は書けません。いやしくも一冊の本を出すからには、「本を書く」という明確な意識を持った目ですべてを観察しておく必要があるからです。そうして気がついたことをどんどんメモしていきます。忘れないうちに書き留めます。それは日記ではありません。文章を書くために必要な材料のメモです。そしてそのようなメモを集めて、本にまとめていきます。面白い部分を膨らませ、あまり面白くない部分を捨てていきます。

その地の人々の気にさわることを書くこともたまにはあります。これはある程度しょうがないことです。旅行や滞在には面白くないこと、不快なことはつきものですから。正直になろうとすれば、嫌なことだってしっかり書かなくてはなりません。ただ、常にユーモアの精神を忘れないこと、自己をできるだけ客体化すること(ひとりよがりにならないこと)、これはとても大事です。そうすれば、その地の人が読んでも、それほど腹を立てることはないでしょう。と思いますが。

村上春樹拝