小説、中説、大説?

翻訳もなさっている村上さんに質問です。ノベルを小説って訳していいんですか? 『星の王子さま』なら小説でいいでしょうが、『戦争と平和』や『海辺のカフカ』は中説、あるいは大説なのでは? 長編小説とかいってますが、何だかしっくり来ません。英語でもLong novelとか言うんですか?
(ノベル、男性、55歳、医師)

そうですね。小説はどうして小説というんだろう? novelという言葉に「小説」という訳語をつけたのは坪内逍遥であると言われています。『小説神髄』の中で逍遥は近代小説のあり方を定義しました。勧善懲悪みたいな大時代なものではなく、市民社会の生活ぶりをせつせつと写実せよみたいなことを主張していたので、一種のマイルドな卑下として「ささやかな言説」みたいなことを意味したのではないかと、僕は推測しているのですが、これという確かな説はないみたいです。この時代の訳語って、「ま、このへんでいいだろ」みたいなけっこういい加減なものが多いですから、あまり真剣に考えなくていいんじゃないかと思いますよ。

村上春樹拝