『ノルウェイの森』の光り輝いていた記憶

村上春樹さんの大ファンで、出版されているものは全部読ませていただいているのですが、『ノルウェイの森』など、何度読み返してもあまり好きじゃないのもあります。
今まで何人もの村上さんの大ファンと言う人に会いましたが、口裏を合わせたように『ノルウェイの森』を好きじゃないのは、本当の村上春樹ファンじゃない、と言われました。本当のファンってなんですか? 
自分的には『羊をめぐる冒険』『ダンス・ダンス・ダンス』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』などが好きなのですが、その辺を好きなのは普通の小説ファンで、本当の村上春樹ファンは『ノルウェイの森』がマストなのだそうです。
同じようなことを毎回、申し合わせたように言われるので、少しだけ気になっています。
(ぼむ、男性、57歳、アルバイト)

そうですか。いろんな考え方があるんですね。僕は自分が次に書く小説にしか頭がいかない人間なので、昔書いたもののことはよくわからないんです。読み返すと、いやなところばかりが目につきます。だからまず読み返しません。ただその本を書いていたときの自分の記憶だけが残っています。そしてそれは悪くないです。というか、わりに素敵です。中でも『ノルウェイの森』を書いていたときの記憶はいちばん素敵だったですね。僕はあの本のほとんどをローマで書いたのですが、僕の記憶の中ではローマの街は光り輝いています。読み返すつもりはありませんが、そういう輝きはたぶんあの小説の中に反映されているはずだと僕は感じています。もしよかったら、もう一度読み返してみてくれますか? もう二度と戻ってこない光みたいなものが、そこにあるかもしれない。そういう気がします。

村上春樹拝