女性の悪と男性の悪

いとしの村上さま
村上さんは、なぜ「悪女」という言葉があると思われますか。
「女流作家」はあるけど「男流作家」はない、というのと同じなのでしょうか。
わたしが今まで人にこの質問をした中で、いちばん「ふむそうかな」と思った答えは(思いたいのかもですが)、「女の人の方が頭がいいからじゃないかな」です。
ぜひ村上さんはどうお答えになるのか知りたいので教えてください。
(にへいこう、女性、30歳、不動産業)

そういえば「悪妻」って言うけど、「悪夫」とは言いませんよね。また「ファム・ファタール(致死的な女)」はいるけど「オム・ファタール」っていませんよね(僕の知る限りいない)。不思議ですね。

男性よりも女性の方がより悪が深いのか? より致死性が高いのか? こんなことを言うと叱られそうだけど、たぶんそのとおりだと僕は思います。男性の悪が堅く地殻的なものだとすれば、女性の悪は流動的な溶岩に近いものです。前者が意図的なものだとすれば、後者は本能的なものです。地表に吹き出したとき、それは致死的なものになります。その怖さをたぶん昔の人は言葉にしたのだと思います。

村上春樹拝