世界を理系の魂で見る

村上さんこんにちは

村上さんは、世の中にある「数式」の量や割合についてどう思われますか。
私はつい数ヶ月前までエンジニアとして働いており、大学の専攻も理系でしたが、生活していく上で「ここは言葉でなく数式で表せばもっとわかりやすくなるのに」とか、「つまりそれはこれがこれの関数になるということですか」と思うことが、そこそこあります。
仕事で技術論文を読んでいた時にも、昔に比べて数式が減ってるなあと思うことがありました。

村上さんは世の中にある数式は今くらいの塩梅でいいと思いますか。
私としてはもう少し世の中に数式が増えてほしいです。
(コッペパン、男性、26歳、無職)

そうですか。ぼくは数学のたぐいがどうも苦手なので、数式を示されると引いてしまうところがあります。数式のない世界に行くと、ほっとします。あなたとは真逆ですね。そういえば河合隼雄さんは昔、数学の先生をしておられました。京大理学部数学科を出て、高校で三年間数学を教えておられました。もともとが理系の方です。しっかり数式の人です。それが結局、人の心を取り扱うお仕事をなさるようになりました。そういう数式的な思考が、心理学を探究するにあたってどのような役を果たしていたのか、一度そのへんのお話を聞かなくてはと思っていたのですが、その前に残念ながら急逝されてしまいました。とても残念です。

ただ僕が感じたのは、河合先生はうわべの感情にはなかなか簡単に流されない人だなということでした。もちろんそういうものを理解はされるんだけど、観察者としての厳しいスタンスを維持したまま、その奥にあるものを見据えようとなさいます。そして常に机上の論理よりは、手に取れる実証を求められました。そういうところに「理系の魂」みたいなものがうかがえたのかなという気もします。

というわけで、「ここは言葉でなく数式で表せばもっとわかりやすくなるのに」と思われるのももっともですが、数式ではなく「理系の魂」をもって世界を広くしっかり見ていただければと思います。人の心はなかなか関数だけでは表せません。

村上春樹拝