シダー・ウォルトンとジャズの話

昨今あまりメジャーとは言われませんが、学生だった頃からCedar Walton、Sam JonesとBilly Higginsのトリオが大好きでしょうがありませんでした。(卒論のネタにも使わせていただきました)それだけに村上さんの『意味がなければスイングはない』の1ページ目をめくった時に衝撃を受けたことを今でも覚えています。
一昨年にシダーが亡くなって、このトリオは誰一人残らず……僕の一番のお気に入りであるBob Bergとのカルテットも全員揃って、鬼籍に入ってしまったことになります。ベーシストとしての大きな目標の一つがシダーとの共演でしたが、叶うことはなく彼は来日のスケジュールを遺したままに急逝してしまいました(余談ですが、そんな目標の消失もあってか昨秋からはサラリーマン兼業ミュージシャンに成り下がっております)。
過ぎ去ってしまったジャズメンへのお言葉、あらばお願いします。
(ベースねこ、男性、28歳)

そうか、みんな亡くなってしまったんですね。あのトリオはたしかに素晴らしいトリオでした。ピットインで目の前で聴きましたが、最初から最後まで息を呑みっぱなしでした。残念です。僕は数年前に東京の『コットン・クラブ』でシダー・ウォルトンのトリオ(違うトリオですが)の演奏を聴いて、それが最後になってしまいました。相変わらずチャーミングで、楽しく知的で、心揺さぶられる演奏でした。そのときちょうど小澤征爾さんが一緒で、二人で楽屋に行ってウォルトンさんとちょっと話をしました。小澤さんが「僕はオザワっていって、指揮者なんだけど」というと、ウォルトンさんは「いや、それは知ってる」と答えていました。普通知ってますよね(笑)。それから小澤さんが「いや、僕はこのあいだ癌で手術をしてね」と言ったら、ウォルトンさんも「そうか、私もこのあいだ切ったんだ」みたいな話になって、しばらく癌の話が続きました。いささか不思議な、でもなかなか楽しい会話でした。

大西順子さんは連日『コットン・クラブ』に通って、彼の演奏を最初から最後までしっかり聴いておられました。「ものすごく勉強になるのよね」ということでした。僕もそう思います。彼のピアノを聴いているだけで本当にジャズの勉強になりました。見かけの派手さこそありませんが、エッセンスがみっちり詰まっているというか。でもサム・ジョーンズとビリー・ヒギンズと組んだトリオはまさに最強でしたね。スインギーでありながら、決して下品に流れず、テクニシャン揃いでありながら、決してテクニックに溺れず。ああいうジャズはこの先もう聴けないかもしれません。

村上春樹拝