なくならない悪夢と向き合うには

こんばんは。前回は勇気がなくてお聞き出来なかったことなんですが。
『海辺のカフカ』に、笑い続ける父親の顔へするどい嘴を何度もたたき込むが父親は笑い続ける、というようなシーンがあったかと思います。
もう何年も、私はまさにこのような悪夢に悩んでいます。
私は、実母との間にしかるべき「自分は愛されている」という確信を一度も持ったことのないまま大人になってしまいました。おそらく私の幼少期、母は祖母(母にとっては姑です)の機嫌をそこなわないで(それがおそろしく難しいことなのですが)、家業をやっていくことだけで頭がいっぱいだったのだろうと思います。
もちろん母娘関係はこじれにこじれ、家出さわぎからストレス性疾患まで一通りバタバタして、そのこと自体はもう、いつまで言っていたって仕方ないって思えるようになったんです。母には母の、祖母には祖母の悲しみがあったでしょうし、自分はいま自分の子供を愛し、子供も私を愛してくれます。
それなのに、その悪夢はなくなりません。
私が泣き叫びながら母に訴える、母は嘲笑をやめない。私が泣けば泣くほど、いっそう笑う。いつもそのパターンです。自分の叫び声で目覚めます。
いつか、これを乗り越えることは出来るんでしょうか。
(匿名希望、女性、39歳、専業主婦)

そのような思いは薄らぐことはあっても、おそらくは消えることはないと思います。その悪夢があなたという今ある人間を作ってきたからです。それを消し去ろうとするのは、あなた自身を消し去ろうとするのとほとんど同じことになります。そのような思いは既に、あなたという人間の一部となってしまっています。だからあなたはこれからも、その悪夢とともに生きていく必要があります。まずそのことを認識してください。つらいかもしれませんが、それが真実です。

にもかかわらず、そのような重荷を背負いながらも、あなたは自分の子供を愛することができるし、子供と良い関係を保つことができる。それは素晴らしい達成です。その達成を続けていってください。人は誰しも多かれ少なかれ、それなりの悪夢を抱えて生きています。その悪夢を乗り越えることによって、人はそれぞれに成長していきます。抱えている荷物が重ければ重いだけ、いったんそれを乗り越えれば、人は大きくなれます。しっかり乗り越えてください。

村上春樹拝