時代を切り取ろうとしていますか?

純文学の評価でよく「現代人の苦悩と不安を描いている」とか「時代を切り取っている」という言い回しが使われますが、村上さんはそういうことを考えて小説を書いてらっしゃいますか? 
(外鴨なきく、男性、38歳、会社員)

いや、そんなむずかしいことはあまり考えておりません(笑)。というか、「時代を鋭く切り取り、現代人の苦悩と不安を鮮やかに描き上げた」なんていう触れ込みの小説って、あまり読みたくないですよね。そう思いませんか? というか、時代にしても苦悩にしても、そんなに簡単に切り取られたり、描き上げられたりしたくないんじゃないかな。小説における物語性の回復というムーブメントは「時代も苦悩も、そんなに簡単に切り取られたり、描き上げられたりはしないんだ」という地点から開始しています。そしてそれは僕の基本的な考え方でもあります。

村上春樹拝