柔らかさの効用

村上さん、こんにちは! 
いつも本を楽しく読ませていただいています。私は日本在住の台湾人です。『ダンス・ダンス・ダンス』の日本語版と中国語版を照らし合わせながら読むのが最近の楽しみです。
村上さんに日本語について伺いたいのですが、敬語は敬意を表すためか、距離を置くためか、どちらに使うと思われますか? 
日本語学校では敬語は敬意を表すために使うと教わりましたが、仕事上で尊敬できない人に敬語を使うのがとても苦痛です。
最近日本人の友達とその話をしたら、相手と距離を置くためにわざと敬語を使う時もありますよと教えてくれました。
村上さんが敬語を使われる時はどちらの方が多いでしょうか? 
(Anita、女性、31歳、会社員)

敬語には表現を柔らかくするという効用もあります。あなたに向かって僕が「よう、元気かい?」と書くより、「こんにちは。お元気ですか?」と書く方があたりがずっと柔らかいでしょう。日本人はだいたいにおいて、相手に敬意を表すためでもなく、相手と距離を置くためでもなく、ただ漠然とあたりを柔らかくするために敬語を使っていることが多いのではないかと僕は踏んでいます。「漠然とあたりを柔らかくする」というのは日本人の気質のひとつの特徴かもしれません。悪くない特徴ですよね。このようなマイルドな美風も最近のネット環境からはだんだん失われつつあるみたいですが。

村上春樹拝