ギャツビーの映画あれこれ(17000通目)

村上様
こんにちは。自分は音楽家なもので、村上さんの小説の中の音楽の部分が大好きです。
うちの子供は文章を読みこんだりレポートを書くのが大の苦手で、高校時代、課題図書である『ギャツビー』を読み終れそうもなかったので親子3人で一緒に読みました。で、私の方が心からはまりました。すごいですね、『ギャツビー』!! 村上さんが翻訳されてると聞いてぜひともぜひとも読みたいと思っています。
アメリカに住んでいるので『1Q84』もやっとこの前読んだばかりで……すみません。

それで何度もあの本を読んだ後、ディカプリオ主演のギャツビーの映画を見て、近年あれほど落胆した事はないというぐらいがっかりしました。俳優さん達の演技は皆良かったし、美術やカメラワークも好きだったし、色々省かれたエピソードも2時間ものにするには仕方ないか、と悪くはなかったです。ただただ音楽が気に入らなかったのです。

その反対で、お話より音楽が素晴らしかったので大好きな映画というのも一杯あります。村上さんも映画を見て、音楽で評価が180度変わってしまったということはありましたか。
(ばけ、女性、49歳)

そうですか、ディカプリオ=ギャツビーはあまり気に入らなかったんだ。僕はけっこうあの映画、好きでした。音楽もけっこう楽しかったですけどね。二回見ました。

監督のバズ・ラーマンとディカプリオは、あの映画の企画を映画会社に持ち込んだんだけど、「今さら『ギャツビー』もないだろう」とはねつけられて、そのときに「ムラカミハルキも『ギャツビー』を訳しているんだぞ」と言って会社の幹部を説得したんだそうです。本当かどうか、見たわけじゃないので知りませんが、そういう話を聞きました。ラーマンさんが日本に来たとき、僕に会いたいということだったんだけど、僕はそのときちょうど日本にいなかったので、会えませんでした。

その前のロバート・レッドフォード版も、フランシス・フォード・コッポラの脚本がとてもうまく書けていて、僕はけっこう好きでした。ただ俳優がねえ……というところはあります。レッドフォードとミア・ファローはやはり少しばかりミスキャストですよね。その前にスティーブ・マックイーンとアリ・マグロウでやろうという話もあったみたいですが、これはちょっと「なんじゃ、そりゃ」の世界ですね。僕は一昔前のサム・シェパードにギャツビーをやらせたかったけど。デイジー役はかなりむずかしいです。育ちが良くて美しくて魅力的で、素直なんだけど、人間が微妙に薄い。そういう演技ができる女優がなかなかいません。

ところで、あなたのメールはちょうど17000通目のメールになりました。おめでとうございます。記念にコードネームを差し上げます。あなたのコードネームは「痛快・胡麻まぶし」です。胡麻まぶしはお好きですか? 僕は大好きです。

村上春樹拝