喧嘩になるのが分かっているのに

おはようございます。私は今成田空港の近所におります。今から山中湖まで、3時間のドライブなので、主人が眠らないよう色々話をします。そこで質問です。
村上さんは、ご家族との会話で、困る話題ってありますか? あるとしたら、その話題は避けるのが賢明でしょうか? 
私たち夫婦は例えば、第二次世界大戦について、憲法改正問題、猫と犬どちらがよいペットか、などの話題は危険なのです。話しても話しても溝は埋まらず、喧嘩になります。かといって、わざわざその話題を避けるのは、お互いをあきらめるような残念な気がして、またトライ、また喧嘩、の繰り返しです。ちなみに夫はアメリカ人、私は日本人です。
(朗善、女性、55歳、主婦)

へえ、そんなにすぐに喧嘩になっちゃうんだ。第二次大戦とか憲法問題についての論議はまだわかりますが、犬猫ペット論争はわからないですね。犬か猫か、とくに真剣に喧嘩するほどのことではないじゃないですか。でも喧嘩になることが最初からわかっているのなら、やはりその話題は避けて、なにかもっと穏便な別の話題を選ばれた方が賢明でしょうね。たとえばしらたきと糸こんにゃくの違いとか、グロックとベレッタは拳銃としてどちらが扱いやすいかとか、どうしてペンギンは南極にいてシロクマは北極にいるのかとか、厩戸皇子(うまやどのおうじ)は本当にうま年かとか、何でもいいじゃないですか。考えてみてください。

うちの奥さんと長時間ドライブするときはすごくラクです。彼女がだいたい一人でしゃべっているから、僕が話題を見つける必要はまったくありません。僕は「ふんふん」と適当に相づちをうちながら、カーステレオの音楽を聴いています。ただ話が僕の過去の失敗とか悪事に及んでくると、ちょっとそれはやばいので、うまく話題をそらせるために懸命に新しい話題を探すことになります。「うん、まあ、それはそれとして、そういえばこのあいださ……」みたいに。だいたいあまりうまくいきませんが。しかし車の中で長く話をしていると、どうしていつも話が僕の過去の失敗とか悪事に及んでしまうのでしょうね。世界に慈悲の心というものはないのでしょうか?

村上春樹拝