翻訳家になるには留学経験は必要?

はじめまして。私は小説の翻訳家を志望しています。地方在住なので翻訳学校もなく、ひたすら原書と訳本を突き合わせて独学する日々です。村上さんの訳された『グレート・ギャツビー』も大変良い勉強になりました。そこで村上さんにお尋ねしたいのですが、翻訳家になるには留学経験はあった方が良いと思われますか? 私は英語の原書を読むことは大好きですが、英会話は苦手です。海外経験も数回の旅行しかありません(アメリカは未訪です)。よく翻訳は英語よりも日本語力が大事だと聞きますが、ろくに英会話もできないような人間に著者は翻訳を任せたくないんではないだろうか、と不安になります。何かアドバイスがありましたら、よろしくお願いいたします。
(koharu、女性、30歳)

これはあくまで僕の個人的な意見ですが、どこかの時点で長く(少なくとも一年くらいは)外国に出られることをお勧めします。日本語力ももちろん大事ですが、現場の新鮮な空気を吸うことも、翻訳にとってはけっこう大きな意味を持ちます。僕も昔はあなたと同じような境遇にいましたが(読むのは得意・話すのは苦手)、外国に暮らしたおかげで少しはしゃべれるようになりました。少ししゃべれるだけでも、語学に対する姿勢はけっこう変わってきます。これから真剣に翻訳をなさるのなら、英語を話せた方がいろんな意味合いでなにかと便利だと思いますよ。昔の翻訳家には「しゃべれないが翻訳はうまい」という方がよくおられました。もちろんそれでちっともかまわないんですが、時代もずいぶん変わってきていますしね。

村上春樹拝