村上さんを潤す「水」は何ですか

はじめてメールさせていただきます。
村上さんの書く文章の一読者です。

『海辺のカフカ』(これがはじめてまともに読む村上作品でした)を読んだ時に、砂地が一気に水で潤うような感覚を覚えました。
作品の中にある何かに触れて自分の中で化学反応が起きました。
身体のなかの毒素をすべて洗い流すような感覚は、その時にしか味わえないものでした。
びっくりしながらも同時に、世の中にはこういうものが探せばちゃんとあるんだという事実を実感して、それは当時26だった私にとって励みになりました。

村上さんの小説は私にとって水のようなものです。
『海辺のカフカ』だけをさしていうならあれは夏場に水分抜きで接客仕事で6時間くらいぶっ通しで働いた後に飲むアクエリアスみたいなものでした。
村上さんにとっての水はなんですか。

ちょっと話したいことで送るつもりだったのですが打っているうちに質問になったのでそちらで送ります。
読んでくださってありがとうございました。
次の小説も楽しみにしております。
(海より森、女性、34歳、図書館員)

『海辺のカフカ』を気に入っていただけたようで、なによりです。僕としても嬉しいです。僕もあの小説を書いているあいだ、十五歳の少年に戻れたようで楽しかったです。ときどきナカタさんになったりもしましたが。僕にとっての水は、なんといってもマラソン・レースでの給水です。あれくらい何かを激しく求めるということは、ほかではあまりないような気がします。

村上春樹拝