言い切りの言説に気をつけよう

学生時代に、「この本の良さが分からない奴ってダメだよね」「世間の奴ってさぁ」とよく言っている人がいました。確かにその人は沢山の本を読んでいたし(もちろん村上さんの本も)、文章力もあったのですが、今思えばその人は、本によって視野が狭くなっていたのではないか? と思います。本に限った話ではないと思うのですが、村上さんはどう思いますか? 
(皮膚がベラベラ、男性、28歳)

そういう人ってときどきいますよね。その昔、キース・ジャレットのソロが世間で流行っていた頃、「キース・ジャレットの良さがわからない人間は駄目だ」みたいなことを言われて、僕にしては珍しくむかっとしたことがあります。僕はたまたまキース・ジャレットのソロがぜんぜん好きじゃなかったんだけど、それとはべつの話として、そんなのわかったって、わからなくたって、人間性とは何の関係もありませんよね。「*****の良さがわからない人間は駄目だ」みたいな言い切りの言説にはお互いじゅうぶんに気をつけましょう。そういうことを口にする人には、たぶん何か問題があります。

僕の小説だってそうです。好きな人がいて、好きじゃない人がいて、それで世界がうまくまだらにまわっているんです。uniformity(画一性)くらい怖いものはありません。みなさんも気をつけてくださいね。

村上春樹拝