「異界」へのアクセス

はじめまして。いつか直接お目にかかる機会があれば、ぜひお聞きしたいと思っていたことがあり、メールをさせていただきました。

村上さんの小説では、たびたび「異界のようなもの」にアクセスするストーリーが描かれているかと思いますが、村上さんは実際に「異界のようなもの」にアクセスしようとしたことはございますか? 

私もこれまでの長くない人生の中で、何度か頑張ってアクセスしようと試みてみたものの、その都度残念な結果に終わってしまっています(仮に心おどる夢が見れたとしても、すぐにのっぺりとした現実が目の前に立ちはだかってしまいます)。

「異界」にアクセスをする、という行動や、思いが、幾分大袈裟な表現にはなりますが、私たちがどこから来て、どこにいくのか、ということのちょっとしたヒントになっていると、何となくいつも感じています。

もしお時間があり、村上さんの思いに何かひっかかるものがあれば、お返事をいただければと思います。
(空飛ぶ猫、男性、29歳、会社員)

僕が小説を書くときに訪れる場所は、僕自身の内部に存在している場所です。それをとりあえず「異界」と呼ぶこともあります。それは現実に僕が生きているこの地表の世界とは、また別な世界です。普通の人は夢を見るときに、しばしばそこを訪れます。僕は――というか物語を語るものはと言ってもいいのでしょうが――そこを目覚めた意識のまま訪れます。そしてその世界について描写します。だからそれは外部にある「異界」ではありません。あくまで内的な「異界」です。異界という言い方が誤解を招くなら、率直に「深層意識」と言ってもいいかもしれません(ちょっとだけ違うんですが)。どうすればそこにアクセスできるか? 僕にはわかりません。瞑想の訓練みたいなものである程度可能になるかもしれませんが、妙な思想が絡んでくると危険なこともありますので、くれぐれも気をつけてくださいね。マジックにはホワイト・マジックとブラック・マジックがあります。違いに留意してください。


村上春樹拝