音楽における直感と経験値

村上さん。初めまして! 音楽について質問があります。以前、楽器の奏者の方とお話しした時、子供や動物こそ、良い演奏が判ると仰っていました。私はそう思いませんでした。私が音楽に接する時、今までの自分が経験した感覚とリンクして、これまで感じたことのある、いくつもの瞬間を思い出す事で、深く感動します。そして、良い演奏は、相手の中のその瞬間を感覚に呼び起こさせる事ができるものだと思っていました。そのストックが少ない方が、音楽を判るとはどういう事でしょうか。その方に尋ねる前に、話が終わってしまい、モヤモヤしています。村上さんはどう思いますか? 
(チョココロネ、女性、34歳、自営業)

優れた音楽というのはきっと、いろんなレベルで楽しめるものなのでしょうね。きわめて直感的なレベルで感じられる素晴らしさもあれば、経験値のストックを通して理解できる素晴らしさもあるということだと思います。そういう複合性・重層性が、演奏なり作品なりの厚みをつくっていきます。その楽器奏者の方は、おそらく何らかの意図があって、直感的な聴き方の素晴らしさの方をことさら強調されたのでしょう。もちろんそればかりが正しい聴き方ではありません。

同じようなことは小説についても言えると思います。僕の小説もそんな風に、いろんなレベルの重層的な読まれ方をされているといいなと思います。

村上春樹拝