登場人物にモデルがいると教わったんですが

村上さん、初めましてyamadaと申します。
今回村上さんに直接質問できるチャンスと聞いてこの機会を逃すまいと思い、質問フォームに投稿しました。
今回、ぜひ答えてほしい質問というのは村上さんの書く作品の登場人物についてです。
私は現在文芸部に所属しており、読むだけの立場から書く立場にもなることを強いられています。その時毎回悩むのは登場人物についてです。私には村上さんの書くような魅力ある登場人物を書くことが出来ません。
そこで訊ねたいのですが、村上さんの書く登場人物にはモデルがいらっしゃるのでしょうか。またどのようにして登場人物を生み出すのでしょうか。
村上さんの研究をしている教授の方に話を聞くと、一部の登場人物にはモデルがいるかもしれないと仰っていました。『ノルウェイの森』の緑は現在の奥さん、直子は高校時代の同級生、キズキは友人とのことですが本当なのでしょうか。
私は最近になって村上さんの本を読み始めました。そのきっかけは前述した教授の影響です。一冊一冊読み終えるごとにどうすればこのような作品が書けるのかと感じます。特に鼠と直子に対しては虜になるほどです。村上さんの書く人物には人を引き付ける魅力と生々しさがあると私は思います。
村上さんの作品について、他者が書く考察本ではなく本人の口から色々と聞きたいと私は思います。何も語れなくなるまえにぜひお願いします。
(yamada、男性、20歳、学生)

僕は基本的に「テキストはオープンですから、好きに解釈してください」という立場をとっているのですが、モデル問題に関しては、明らかな間違いや事実誤認が横行していることもあり、ときどき訂正をさせてもらっています。まずひとつ理解していただきたいのは、この『ノルウェイの森』は自伝的な話ではないし、特定のモデルは存在しないということです。ここに書かれている心情のようなものは、おおむね僕が抱いた心情に近いものかもしれません。しかし書かれている内容はまったくのフィクションですし、具体的なモデルはいません。あるいはいろんな人々のキャラクターが合成されてできあがっています。その教授は何か事実誤認されているか、あるいは小説というものを極度に単純化して考えておられるように僕には思えます。

うちの奥さんにあなたのメールを見せたら、「まったくもう、どうして私が緑のモデルなのよ!」とぷんぷん怒っていました。そんなに怒ることもないと思うんだけど。でも「ちゃんと誤解をただしておいてね」と言われたので、こうしてこのお返事を書いております。あまり家庭に波風を立てないでください。お願いします。

村上春樹拝