翻訳する際の精神的ハウツーを

翻訳に際して、原文の解釈がどうしても不可能なことってありませんか? ありますよね。そんな箇所があると、私はその本全体を訳すのがイヤになってしまうんです。「そこを訳さなくても全体として伝わればいい」と言われたりもするのですが、その箇所こそがその本のミソである可能性が捨てきれないし、他がすべて思い通りに翻訳できていたとしても、その一点だけで逃げ出してしまいます。村上さんのそのへんの精神的ハウツーを教えてください。
(政子、女性、42歳、大学教員)

あなたはたぶんとても潔癖な性格なのだと思います。僕はそういうハードな部分があると、そこをすっ飛ばしてどんどん先に進んでいきます。全体を訳し終えてからそこに戻ってくると、今度はなんとかうまく訳せるということが多いです。だいたいわかります。どうしてもわからん、原著者にもたしかめられない、という場合は、翻訳者の権限で「超法規的行動」に及ぶこともありますが、それはあくまで最終手段です。

村上春樹拝