耳栓が手放せないチェリストの夫

こんにちは。村上さんは、BGMについて素敵な場面を幾つも書かれてますね。パスタを茹でる時の「泥棒かささぎ」とか。私は『1Q84』を読んでヤナーチェクを知りました。「ノルウェイの森」も改めて歌詞を面白く読みました。ところが、実際我が家では、BGMはご法度です。私の夫はコンサートチェリストで、ホテルの朝食バイキングなどで耳に流し込まれる音楽を毒薬か暴力のように感じてます。ボリュームを少し下げて下さいとお願いしても、どこでも断わられるので、今は耳栓を持参しています。スキー場にも耳栓必須です。私の故郷でリサイタルをした後、町一番のフレンチレストランのオーナーがモーツァルトをかけてお迎えしてくれたのですが、夫は止めて下さるよう懇願してました。わざわざ夫のCDをかけて下さることもあり、黙って耳栓している彼を見ると可哀想になります。心に残るような素敵なBGMにはなかなか出会えないものです。
(朗善、女性、55歳、主婦)

そうですね。僕もまったく音楽のかかっていない店に入るとほっとします。日本の飲食店って、ほとんど必ず何か音楽が流れていて、けっこう疲れることがあります。それもだいたいはひどい音で。

かなり昔のことになりますが(これは前にもどこかで書いた覚えがあるんだけど)、原宿のラフォーレに入ったら、こっちの店からホール&オーツの「I Can't Go for That」が大きな音で流れてきて、あっちの店からスティービー・ワンダーの「Part-Time Lover」が大きな音で流れてきて、それがちょうど僕のいるあたりでぶつかってひとつに混じり合って、わけのわからない騒音になって、そのときはさすがに僕もぶち切れました。すぐにそのビルを飛び出して、それ以来原宿にはほとんど近寄らないようにしています。日本人って音に対していささか無神経なところがあります。どうしてでしょうね? 

村上春樹拝