どの「水丸さん装丁本」がお気に入りですか?

昨年は安西水丸さんが亡くなられてとてもショックでした。
村上春樹さんの本を通して安西水丸さんの絵のファンにもなりました。
安西水丸さんが装丁をしたご自身の本で、お気に入りを教えてほしいです。
わたしは『螢・納屋を焼く・その他の短編』の芝生の具合が好きです。
(プラス9、女性、32歳、主婦)

僕は『中国行きのスロウ・ボート』の表紙を最初に見たときの驚きが忘れられません。ほんとうにセンスの良い、素晴らしい絵でした。担当編集者は「これのどこがいいの?」と首をひねっていましたが、わからない人にはわからないんだなあと、つくづく思いました。水丸さんもその頃は平凡社を退職して、イラストレーターとして独立したばかりで、とにかく意欲にあふれていました。あとになるとだんだんあの独自のスタイルが確立し、画風も落ち着いてきましたが、あの当時はまだいくぶん不揃いなものの、不思議な勢いがあったなと思います。

『螢・納屋を焼く・その他の短編』のオリジナル単行本の、文字だけの表紙も素敵だったですよ。僕は水丸さんの字が好きで「手書きの字だけでデザインしてください」と頼んだんです。ただ猫を描くのが苦手で(猫が怖くてしょうがないということでした)、『うずまき猫のみつけかた』の表紙を描くのには相当苦労されたようです。最初にできてきた絵はとても猫には見えなくて、「水丸さん、これ猫じゃないですよ」と言って、描き直してもらいました。懐かしい思い出です。

村上春樹拝