私一人が読んでも読まなくても

村上さん、こんにちは。私はあと2週間で21歳になる大学生です。質問なのですが、村上さんにとってひとりひとりの読者とはどういうものなのでしょうか? 村上さんの作品が大好きで、読んでは勇気をもらっています。でも時々、私一人が読んでも読まなくても、村上さんにしてみれば一緒なのではないかと思うこともあります。そしてそういうときは少し落ち込みます。村上さんの読者のイメージを教えていただけると嬉しいです。
(もりー、女性、20歳、大学生)

むずかしい質問ですね。たしかにあなたが読んでも読まなくても、僕は違いに気づかないと思います。言うまでもなく、具体的に読者の数を数えることはできませんから。でもそれはこの地上での話であって、足元のずっと下の方の暗くて深いところでは、きみが僕の本を読んでくれないことで、僕は少し傷つくことになるかもしれません。そして少なからず落ち込むかもしれない。そこでは、僕は逆にきみから勇気をもらって本を書いているかもしれません。そういう風に考えてみてはどうでしょう? この地上ばかりが僕らの世界ではありません。僕らの足元深くにはそういう特別な世界があるのです、ほんとに。

村上春樹拝