青豆さんにモデルはいたのですか?

初めまして、こんにちは。「村上さんのところ」が開かれると知り、一度聞いてみたいことがあったのでとても興奮して待っていました。

というのも『1Q84』の青豆さんに深く共感するところがあったからです。私の家族は熱心な「証人会」の信者であり、20歳でドロップアウトした私は青豆さんのように、家族からは「信仰を捨てたもの」扱いです。青豆さんが自分の家族について考える場面を初めて読んだとき、私の気持ちが村上さんによってそのまま活字になっていることに衝撃を受けました。その場面を手帳に書き写し、時々読み返すのですが、そのたび胸がドキドキして、心の中で血がダラダラ流れているような気がします。普段は考えないようにしているけれど、家族に捨てられたことについて吹っ切れていないんだなあと気づかされます。

というわけで、質問なのですが、村上さんは青豆さんという人物を設定するにあたってどんな取材をしたのですか? 心の葛藤については、モデルとなる人がいたのでしょうか? それともまるっきり村上さんのペンから生まれた人物なのでしょうか??

もしお答えいただけたらとてもうれしく思います。読んでいただきありがとうございました。
(やどかり、女性、34歳、パート)

あなたと同じような境遇の方からいくつかメールが寄せられています。これまでの人生、いろいろと大変だったと想像します。

僕はその本を書くにあたって、とくに取材はしませんでした。でも『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』という二冊の本を書くときに、オウム真理教をかなり綿密に取材しました。宗教の質はまるで違いますが、原理的には似たところがあるかもしれません。人は「物語性」の中に密閉され、変質させられます。でも密閉され、変質させられた側には(多くの場合)そういう認識はまるでありません。それがいちばん怖いところです。

がんばって生きてくださいね。そういう気持ちを味わっているのは、あなた一人だけではありません。

村上春樹拝