おそれ多くて原稿に赤字なんて……

村上さん、こんにちは。僕は雑誌の編集者をしていますが、小説の校正をしたことはありません。村上さんの原稿には編集者の赤字が入るのでしょうか。誤字脱字くらいは入りそうですけれど。僕だったら、畏れ多くて村上さんほどの作家が書いた原稿に赤字を入れることなんてできそうもありません。
(かわぐち、男性、26歳、編集者)

そんなのしょっちゅう赤字は入ってきます。僕はよく間違いをおかしますので。事実誤認とか、表現の明らかな間違いとか、「これはちょっと問題起きるんじゃないですか」とか。字句的なことだけではなく、小説の構成についてのアドバイスを受けることももちろんあります。アメリカの雑誌「ニューヨーカー」は雑誌の方針にあわなければ「これ、いりません」と作品を突き返してきます。どんな有名な作家相手でも同じことです。僕もずいぶん突き返されました。ここは書き直してほしいと注文もどんどん来ます。書き直せるところは書き直します。雑誌用にはそうしておいて、本にするときに元に戻せばいいだけだから。「ニューヨーカー」はアメリカでもちょっと極端な例ですが。

日本でも、原稿そのものを「これ、いりません」と突き返されたことは一度だけあります。ずいぶん前のことですが。でもまあ35年以上作家をしてきて、突き返されたのが一度だけというのは、立派な成績かも、とも思います。

村上春樹拝