教えることは楽しいけれど

またこんなコミュニケーションの場を設けて下さるとは……本当に感激です。
同じ時代に居るんだなと心が小躍りしてしまいます。
さて、私は教員をさせて頂いていますが、教えるお仕事をされたことのある村上さんに伺いたいことがあります。教える立場の者としてどんなことを大切にされましたか。
(みろり、女性、37歳、公務員)

あなたのメールは6500通目です。きりが良いので、記念にコードネームをさしあげます。「峰のいぬわしさん」です。あまり気に入らないかもしれませんが、あきらめて受け取ってください。

僕は教員免許ももってないのに、そしてまったく教えた経験もないのに、プリンストン大学とタフツ大学で日本文学のクラスを持つという大胆なことをしました。いろいろ事情があり、まあ、ある程度やむなくやったんですが。そのときの講義録みたいなものは『若い読者のための短編小説案内』という本に収められています。教えるのは楽しかったですよ。若い人たちとふれあう機会が持てるのは意義のあることだったし。でも僕はものを創る人間ですので、人にものを教えていると、自分の仕事ができなくなってしまいます。「創る」のと「教える」のはなかなか両立しないことだなと実感しました(もちろんちゃんと両立できる方もおられるのでしょうが)。ただ僕が教えるときに気をつけたのは、「せっかくの機会だから、僕も学ばなくちゃ」ということでした。そして実際に学ぶことはたくさんありました。

レイモンド・カーヴァーもジョン・アーヴィングも大学で創作を教えていましたが、専業作家として生活できるようになったら、さっさと先生をやめてしまいました。まあそうだろうな、と思います。時間がとられるから。トニ・モリソンとジョイス・キャロル・オーツはまだプリンストンで教えておられると思いますが。

村上春樹拝