悪しき物語に対抗するために

地下鉄サリン事件からまもなく20年です。
改めて『アンダーグラウンド』『約束された場所で』を読み返してみましたが、20年経った今も、多くの問題を投げかけていると感じました。『アンダーグラウンド』は、また全部読み通してしまいました。今読んでも、感動します。その中の何人かの声に触れると涙が出ます。『約束された場所で』は、今読んでも、いろいろな意味で頭を抱えて考え込まされます。

村上さんは、当時「悪とは何かずっと考えてきたが、まだよくわからない」とおっしゃっていましたが、現在、悪について、何らか新たな見解に達していらっしゃったら、少し教えて頂ければうれしいです。

また、麻原や少年Aのように「純粋な悪、悪の腫瘍みたいなものがわっと結集して出てくる場合があるような気がする」と書かれていますが、そういうものに対しても、「新たな物語」を社会に提出し続けてゆくことがもっとも有効な対抗策とお考えでいらっしゃるでしょうか? 
(naga、男性、53歳、会社員)

悪しき物語に対抗するには、善き物語を立ち上げていくしかないという考えには、今でもまったく変わりはありません。論理に対抗する論理にはどうしても限りがあります。論理対論理は地表の戦いであり、物語対物語は地下の戦いです。地表と地下がシンクロしていくことで、本当の効果が生まれます。自分の物語を、できるだけ「善き物語」(決して倫理的にgoodということではありません)に近づけていきたいというのが、僕の一貫した気持ちです。

村上春樹拝