性的な問題を描くときの想像力とは

春樹さん、こんにちは! 今日は個人的な質問です。
『1Q84』の青豆さんのパートを読んでいるうちに私がちょうど直面していた問題と重なって、何か恐ろしいものが引きずり出されるような、強い感情が動きました。だからずっと泣きながら読んでいたのですが、春樹さんは女性の抱える性的な問題を描くとき想像力を駆使して書いているのでしょうか? 

だって、春樹さんの文章でだけしかそんなことは起こりません。
すごく不思議です。
(かつら、女性、34歳、主婦)

女性の側からセクシュアルなものごとを描くというのは、男性作家にとって(というか少なくとも僕にとって)正直言ってとてもむずかしいです。だってそんなこと、僕に実感としてわかるわけがないんだから。たとえば女性の性欲がどのようなものかなんて、もう想像するしかないわけですよね。でも小説を書いていると、小説的な流れの中で、いろんなことがするすると自然に出てきます。想像力を駆使するというよりは、そういう流れをうまくつかむことが大事になります。流れがつかめれば、登場人物は「正しい」行動をします。「正しい」というのは、小説的に正しいということです。そうすると、普通ではわからないようなことが、僕にもわかってきます。つまり静止の中ではなく、流動の中でものごとの有り様をつかんでいくわけです。性的な描写は、できるだけそういう風に書くようにしています。

村上春樹拝