「回る寿司シェフ」の店

村上さん、こんばんは。
私は35歳の主婦で夫と小学1年生の息子、2カ月前に生まれた娘と暮らしています。
私はわけあって今、回転寿司屋の駐車場に停めた車のなかで娘を抱きながら、店内で寿司を食べている夫と息子を待っています。

村上さんは巷に溢れる回転寿司屋に行かれたことはありますか? 

また、出先で思いがけずできた空き時間、誰かを待つ間、村上さんはどのように過ごしますか? どんなことを考えることが多いですか? 
(もぐてく、女性、35歳、専業主婦)

何を隠そう、僕は回転寿司ってわりに好きなんです。ときどき襟首をつかまれて引きずり込まれるみたいに、回転寿司に一人でふらふらっと入ってしまいます。しかし世の中にはいろんな回転寿司がありますね。この前入ったところでは、「最低六皿は食べてくださいね」と言われました。まあ六皿くらいは食べると思うんだけど、最初からそう言われるとすごく緊張しました。空っぽのベルト・コンベアがぐるぐるまわっていて、注文するとそれを作ってのっけてくれる回転寿司もありました。べつにいいんだけど、空っぽのベルト・コンベアがただ回っていると、なんだか黒々として寂しいものです。

僕は寿司の職人がベルト・コンベアに乗ってまわってくる「回る寿司シェフ」という店があるといいなと、昔から思います。「中トロとイカ」とか言ったら、「へい」と返事があって、今度寿司シェフが回ってくるまでにできている。空港のベルト・コンベアの前で荷物を待っているときによくそんなことを考えています。街角で村上を見かけて、何か考え深い顔をしていたら、だいたいそういうことを考えているのだと思ってください。

村上春樹拝