鍵のかかっていない檻の中で

私は36歳の主婦です。偶然、村上さんとやりとりできるかもしれないと知り、メールせずにはいられませんでした。

初めて村上さんの小説にふれたのは、大学のセンター試験の現代文でした。何故かその後に気になり、自分で書店に行き購入したのが『ノルウェイの森』でした。大好きになり、色々な作品を読みました。主人公がパスタやサンドウィッチを作って昼間からビールを飲むシーンとか読んだことがあり、私がそうするときはいつも村上さんの世界みたい……などと思います。

相談ですが、現在私は結婚して2年半ですが、夫とは仮面夫婦といいますか、お互いに愛情がない状態です。でも幼い息子を私は愛していますし、夫も可愛がっています。あと18年、自分の母親としての務めを果たして楽しく過ごしたいと思いますが、悩むこともあります。村上さんなら愛情がなくなった人とはどのような気持ちで暮らしますか? 信頼関係もないのでなかなか難しいですが、離婚を避けたい理由がたくさんあります。大好きな村上さんに爽やかに気持ちを切り替える考え方とか聞いてみたくなりました。くだらない話ですみません。
(トロ助、女性、36歳、主婦)

くだらない話とはもちろん思いませんが、困りましたね。お子さんはいるんだけど、夫との間に愛情がなくなってしまった。あなたの置かれた状況は僕に、檻に入れられた動物の姿を思い浮かべさせます。檻の入り口には鍵はかかっていないんだけど、動物は外に出て行こうとしない。檻の中にいれば安全だから。もちろんそれはあなたの人生であって、何をどうするかはあなたが決めることです。安全をとるか、自由をとるか。とてもむずかしい選択だと思います。僕なら思い切って出ていきますが、あなたは僕ではないし。もし檻に残るためのアドバイスを僕に求められているのだとしたら、僕にはうまい忠告は思い浮かべられません。

村上春樹拝