ヘミングウェイは翻訳しないのですか?

村上さんの著書だけでなく、翻訳物も楽しく読ませてもらってます。特に近年のチャンドラー物は本当に素晴らしい! そこで折り入ってなんですが、チャンドラーにも影響を与えていると思う、ヘミングウェイの翻訳はなさらないのですか? 
(nbu0412、男性、48歳、会社員)

ヘミングウェイは既に優れた多くの訳が出ています。新訳も出ていますし、最近は柴田元幸さんもいくつか翻訳をされていますし、僕の出る幕はないというか……。チャンドラーは僕が個人的に大好きだし、既訳とはまたひと味違う翻訳ができるのではないかと思ったこともあって、やりました。清水俊二さんの既訳が定着していますので、新しく割り込んでいくのに何かと苦労はありますが(『キャッチャー』のときと同じように)、翻訳書にとって「いくつか選択肢がある」というのは大事なことですよね。チャンドラーの翻訳をするのは本当に楽しいです。こんな楽しいことってまずない、というくらいです。誰かの表現を借りれば、「ズボンをはいたままできることの中では、いちばん楽しいこと」ですね。

村上春樹拝