トミー・フラナガンの共時性

今日は土曜日ということもあり、昼ごはんのあと本でも読もうと思い村上さんの『東京奇譚集』を手に取りました。まだこの本は読んでなかったし(後のお楽しみとして未読の村上春樹本はまだあります)何となく長編小説は読む気がしなかったせいもあります。

さて最初の短編「偶然の旅人」ですが、のっけから作者が登場し「不思議な出来事」が語られています。これって本当に本当のこと? と素朴にも考え込んでしまいましたが、やっぱり小説上の仕掛けだろうと思いました。ピアニストのトミー・フラナガンのライブで、もしリクエストできるとしたらと頭に浮かんだ2曲、それも「渋い」曲が二つとも演奏されるなんてありえない。たぶん、この2曲は実際に演奏されたのをその渋い選曲にひらめきを得た作者がこの小説の導入部にひねりを加えて使ったのではないか。そんなことを頭に浮かべながらも読み進めていったのですが、この小説に刺激されてジャズを聴きたくなり手元にあったiPhoneでジャズのラジオアプリを開きました。曲紹介のテロップを見るとオスカー・ピーターソンとなっています。正直言って私のジャズの知識は貧弱なものですが、オスカー・ピーターソンとトミー・フラナガンの違いくらいは判別できます(ホントかな?)。とりあえずピーターソンでもいいか、と(ピーターソンさんごめん)その演奏をバックに小説を読み進めていたのですがしばらくすると音楽が止まってしまいました。何回かボタンを押しても画面は変わりません。しょうがないのでしばらく放置し、2分ほどしてスタートボタンを押したところまた音楽が流れ始めました。サックスの競演でうるさいくらいです。やっと終わった時、アナウンサーの声がしました(英語です)。「ピアノはトミー・フラナガン」ややあって「サド・ジョーンズ」。前後に何をしゃべっていたのかは聞き取れませんでした。私の話はこれだけです。
(矢野**、男性、64歳、嘱託(翻訳))

この「偶然の旅人」の最初に出てくる二つの不思議なエピソードは、どちらも本当にあったことです。我ながら不思議だけど、実話です。僕にはそういうことがときどき起こります。「シンクロニシティー」ということになるのでしょうか。まえにも書きました、聞こえているはずのない音楽が聞こえる、ということもあります。オリヴァー・サックスの『見てしまう人びと 幻覚の脳科学』(早川書房)にもこのような幻聴音楽のことが書かれています。面白い本です。音楽ってなかなか不思議なものです。

村上春樹拝