静かな、凪いだ海で

はじめまして。
私は先生の事が大好きです。と、同時に、生まれ故郷の事も、また、大好きなのです。実はわたくしの生まれ故郷は、今、立ち入り禁止区域として、入ることができません。3.11に起きた大災害は、わたくしから、ふるさとを奪っていきました。
しかし私はそれでもふるさとが好きです。言い換えれば、その場所が好きなのです。すでにそこには建物はありません。正確に言えばすでにそれはふるさとではないかもしれません。
でも、瓦礫の山と静かな海との間に立って、――それは静かな、凪いだ海でした――私はやっぱりどうしてもここが自分のふるさとであると認識しないわけにはいきませんでした。
先生は、街が無ければふるさとは存在しないとお考えになりますか? それとも街はなくとも、その場所は人にとって、大切な場所でありえるでしょうか? 
不躾で失礼も大概ですが、何卒よろしくお願いします。
(匿名希望、男性、32歳、自営)

生まれ育った土地が立ち入り禁止なんですね。とてもお気の毒です。ショックだろうと思います。

僕も生まれた土地が95年の阪神淡路大震災でがらりと様変わりしてしまって、今では故郷に戻っても、どこがどこだったか、地理がよくわからないような状態です。自然の前では人の営みというのははかないものなんだなと、あらためて実感しました。でもそこにまた新しい営みを築いていくというのが、たぶん人の生きていく姿なのでしょうね。

村上春樹拝