集団的意識とエクルスケーキ

Hello Haruki-san, I am English. This is translated by my wife Suama-san.
Your novels often have an interesting perspective on consciousness. I was wondering what you think about the collective consciousness of mankind and whether we are progressing towards order or chaos? What do you think about conspiracy theories, such as the universe being a computer simulation. Also, do you always take a baseball bat with you in case you fall down any unexpected wells in the dark? 
Best regards, Suama’s husband, Bristol UK.

PS
If you ever come to Bristol I’ll treat you to some Eccles Cakes.

(以下妻の翻訳:)
ハルキさん、こんにちは。僕はイングランド人です。これは妻のすあまに頼んで訳してもらいました。村上さんの書かれるご本には、しばしば意識に関する興味深い見方がみてとれますが、人間の集団のうちに流れる意識 (collective consciousness) についてどのようにお考えですか? またわたしたちは健全な状態に向かっているのか、はたまたカオスに向かって進んでいるのか、などご意見をお聞かせいただけますと幸いです。また、陰謀説――たとえば天地万物がコンピュータのシミュレーションでできている、といった説はどのようにお受け止めになりますか? また、暗闇の中で万が一井戸に落ちてもいいように、野球のバットを常に携帯している、というようなことはあったりしますか?
敬具
英国ブリストル在住、すあまの夫より

PS
ブリストルにおいでの際はエクルスケーキをご馳走させてください! 
【妻注】夫はイングランド北部の人間で、北部名物のエクルスケーキ(干しぶどうがいっぱい入ったパイのようなもの)に目がありません。
(すあまの夫、男性、46歳、めまい専門医)

とてもむずかしい質問で、僕には簡単に答えられそうにもありません。ただ僕は基本的に、人間の意識というのは地表では個別のものだけど、ずっと地下深くに潜っていくと、あちこちで相互的にくっつきあっているものだという感覚を持っています。ですから、物語という穴をどんどん深く掘っていけば、その繋がりに訴えかけることができるはずだと。それが僕の小説を書く目的であり、方法であるわけです。それをcollective consciousnessという言葉で表現することもおそらく可能でしょう。

そのcollective consciousnessが健全な方向に向かっているか、カオスに向かっているのか、それは僕にはわかりませんし、また正直言って、あまり興味のない問題です。「何が健全で何がカオスか」という設問自体に意味があるかどうかもよくわからないからです。僕にできるのは、ただ深い穴を掘っていって、そこに到達するということだけです。僕は観察する人間であり、判断する人間ではありません。

そんなところでよろしいでしょうか?  

エクルス・ケーキ、おいしそうですね。

村上春樹拝