3時間の壁を切れない弟

村上さん、こんにちは。
どうしても村上さんにお聞きしたい事があります。私の弟は年3回のペースでフルマラソンに出ているのですが、どうやら彼は3時間の壁を切る事ができません。

もともと陸上部で走っていたのですが姉として弟のテンションが次第に下がっているのに無理しているように感じます。

弟は今まで読書と触れ合う事なく過ごしてきました。ですが村上さんの『走ることについて語るときに僕の語ること』だけは熱心に読んでいます。ランナーズハイを経験した事が彼の人生を変えたようです。

どうにか3時間の壁を超えさせてあげたいのですが無理でしょうか? 村上さんからアドバイス願いたいです。
(わにゃん、女性、40歳、専業主婦)

年に三回のフルというのはずいぶん多いですね。それでは疲れがうまくとれないんじゃないかな? 僕はこれまで何人かのトップランナーと話しましたが、「フルは年に一回にしておきなさい」というアドバイスをよく受けました。そのレースに身体のピークをもっていくわけです。それから肩に力が入りすぎると、あまり良いタイムが出ないことが多いです。僕は100キロ・マラソンを走る前に「調整」のためにフルを走ったんですが、「タイムなんかどうでもいいや」とジョグ気分で、4時間くらいのつもりで気楽にのんびり走ったら、3時間40分ほどですっと走れました(その頃の僕にすればまず上出来のタイムです)。そういうこともあります。あまり自分をぎりぎりまで追い込まない方がいいのではないでしょうか。

僕はあくまで「小説を書くための身体作り」という目的で走っています。だからタイムは二の次で、自分がこうして健康で、42キロを無事に走りきれるということ自体を楽しんでいます。まあ弟さんはまだ若いから、なかなかそういう気分にはなれないと思いますが。

村上春樹拝<