夫を「村上主義者」に仕向けたものの

村上さん
はじめまして。43歳の会社員女性です。今、新神戸に向う新幹線の車内です。先週、開腹手術した父が阪神淡路大震災復興20年の行事に参加するのに付き添うため、午後お休みをいただきました。

早速ですが、18年連れ添っている夫のことで相談させてください。夫とは大学の同じクラスで知り合い、村上さんの作品に出て来る「僕」のような雰囲気が好きで、あの手この手で策を練り、付き合いにこぎ着け、結婚しました。

結婚後は本棚も共有したため、ビーチボーイズ好きな夫に村上さんの本をすすめてはいましたが、特に手に取る様子はありませんでした。
ところが、昨年から少しずつ読み始めるようになり、長編はあらかた読み終えてしまいました。すると会話の端々に本の内容が出てくるようになりました。一角獣が死ぬ季節だね等。

本来であれば好きな作品を分かち合えて嬉しいはずなのですが、何だか気に入りません。どうしてでしょうか。短編やエッセイを読むようになったら変わるでしょうか。
(ドミニク、女性、43歳、会社員)

やっとご主人が僕の本を読むようになって、それはいいんだけど、なんか感性のひっかかり方が違っている。それでイラッとする。そういうことですね? 困りますね。でもそうイラッとしないで、もっと突っ込んで「冬になって一角獣が死んだら、それでどうなのよ? あなた的に何か困ることがあるわけ?」とか議論してみればどうでしょう? そうやっているうちに、意外にお互いの人間性がずるずると露出してくるかもしれません。18年くらい一緒に住んでも、なかなか相手のことってわからないものです。僕は40年以上一緒に住んでいますが、わからないことだらけです。ナスが嫌いだって、ちょっと前まで知りませんでした。僕の本をテキストにして、お互いのことをもっとよく知り合ってください。

村上春樹拝