高校の図書室にて

こんにちは! 
村上さん、一つだけ聞いてほしい話があるんです。
もしよかったら、私が、村上さんの本に出会った話を聞いてください‼

私が高校生のときの教室は、音楽室を横に半分に区切って、そこに壁をとりつけ、2つの教室にした、その前側の教室でした。その結果、幅は広いのに、やけに奥行きがなくて、おまけにもともとの壁には防音の穴が開いているような、奇妙な教室ができあがりました。そのうえ、そこに23人も入っていました。そこで、生徒たちは毎日過ごしたのです。その学校の校則は、刑務所のようにきつく、しかもその時、私は、家族間で深刻なトラブルを抱えていて、そこにいるのが苦痛でした。ですが、卒業間近のころ、ようやく逃げ場を見つけました。

それが、学校の敷地の奥にある、プレハブ小屋なのです。そこは図書室でした。それまで存在すら知りませんでしたが、図書室は、教室のある棟から隔離された場所にあったのです。図書室はいい場所でした。日当たりが良くて、生徒が2~3人、ぶらぶらしているだけで、パートの司書さんがいる以外、私一人だというときも、よくありました。たぶん、私以外の生徒にも、あまり知られていなかったのだろうと思います。司書さん以外、先生らしい人は来ませんでしたし、司書さんは部外者でした。なので、そこはまるで、学校じゃないように感じられました。本棚の本は、どれも色あせてほこりをかぶっていて、やぶれているのもあり、借りる人のことなど、忘れたようになっていました。背表紙が真っ白な本があって、目を凝らしてみると、うっすら、『白鯨』と書いてあったので、ようやくタイトルがわかったこともありました。その時は、ページが焼けていて、あまりに汚かったので、読むかどうか、真剣に迷ったのを覚えています。ですが、私にとっては、学校のことを忘れられるいい場所でした。

その中に、村上さんの全集もあったんです。それは、棚の上に、全巻きれいに並べてありました。古い本ばかりの図書室の中で、全集は、とても目立ちました。試みに箱から出すと、鮮やかな表紙がでてきました。ページは真っ白で、はさまれている、小さい冊子もちゃんと残っていました。私はそれを読み始め、結局全集のすべてを読みました。そのうちの何冊かは、私が一番初めにページを切ったと思いますし、それが格別うれしかったです。村上さんの全集は、私が借りているとき以外は、いつもきちんとそろっていました。これほど、本がうれしかったことはありません。私は、よく、本の中の村上さんの声を聞きました。おかげで、今の私がいます。隣には村上龍さんの全集もあったのですが、そちらはご縁がありませんでした。どうして村上さんの全集だけあったんでしょうね? 

聞いてくださってありがとうございます。本当の村上さんに話せてよかったです。

(チャーハンになること、女性、27歳)

高校生のときに全集をぜんぶ読んでくれたんだ。ありがとうございます。僕も高校の図書室は好きで、読みたい本はほとんどそこで読破しました。入り浸っていたようなものでした。けっこう変な本があって面白かったな。十代の頃は本の匂いをくんくんかいでいるだけで幸福でした。僕にとってもそれがひとつの逃げ場だったのかもしれません。

今はうまく生きられていますか? 

村上春樹拝