不安や絶望がよぎることはありますか?

ぼくは、あるときから原因不明の病に苛まれ、今も療養生活を送っています。もう投げ出したいと思うことも幾度となくありました。でも、突発的に始まった理由のわからない「痛み」というものは、ふとした拍子に、突発的に終わりが訪れるかもしれない、とそんな淡い期待もあって、どんなに辛いときでも、その度に、なんとか生きていこう、と踏みとどまることができてるのだと思います。村上さんも、あるとき突然小説を書こうと思ったと、あるエッセイで読みました (ぼくと同じ年齢の頃ですね)。ぼくは、「原因不明の突発的なもの」に絶望し、と同時に希望を託されました。逆に、村上さんは、そこに不安や絶望がよぎる ことはないのでしょうか。つまり、突然今度は書けなくなってしまうんじゃないだろうか、という不安がよぎることはあるのか、ちょうどつい最近、ふと、もし村上さんと部屋で雑談する機会があれば尋ねてみたいな、と思いました。そんな折に、この企画を知り、せっかくですので質問させていただきました。
(息吹、男性、29歳)

たいへんですね。原因がわからないというのは、ずいぶん心にこたえることだと思います。どうすればいいか見通しもたたないし、不安なことでしょう。ほんとうに「ある日突然」すっと治るといいんですけどね。

書くことに関して不安や絶望が僕の心をよぎるということはまずありません。僕は基本的に書きたいから書いているのであって、「書きたい」という自然な気持ちが湧いてこなかったら、そのまま書くことはやめちゃおうと思っているからです。作家はやめてべつの仕事をします。だからとくに不安はありません。でも自分の存在ということを考えてみると、また自分の魂のあり方みたいなことを考えると、高く切り立った暗い崖の前にひとりぼっちで立っているような気がすることはあります。

いろんなことがうまくいくことを祈っています。

村上春樹拝