学生時代に小説を書いていたら?

僕は某私立大学で小説創作をしておりました。大学1年生から書き始め、4年目になるところです。小説を書き、芥川賞作家の教授に提出し、講評を頂く――、その繰り返しでした。まともな小説は書き上げられませんでしたが、少なくとも努力は単位として反映されています。
さて、僕はひとまず就職をし、今月から(ちょうど明日からです)研修として働き始めるのですが、村上さんは大学を卒業する前から働きだし、借金返済に追われながらジャズのある労働をしていたと伺っています。
もしもの話になってしまい申し訳ないのですが、大学時代に小説作品を書いていたとすれば、つまり、社会での労働経験なしの状態で小説を書いていたら、一体どのような作品が書けたと思いますか? または、そもそも書かなかったわけですから、何一つ書き上げられなかったかも知れませんか? 
この度は一つ、書き上げられたとしてお答え頂きたいです。
(ラバップマン、男性、22歳、大学4年生)

あなたと違って、僕は大学時代に小説を書こうなんてまったく思わなかったから、そういう仮定にはちょっとむりがあります。でもたぶん、書こうと思ってもなにも書けなかったと思います。いろんなきつい体験をして、いろんなところに頭をぶっつけて、いろんなものを失って、いろんなものを背負い込んで、そこで初めて何かを書きたくなったわけです。その前には何も書くべきことがなかったと思う。でもまあ、作家にもいろんなタイプがあります。まったく社会体験なしで、優れた作品が書ける人もいます。でも僕はそうじゃない、ということです。

村上春樹拝